――――【1】目次――――
序論――戦間期東アジアにおける「四つの国際変動」と日本外交
一 「戦間前期」東アジア国際政治の全体像
1 パリ講和会議期の東アジア国際政治
(1)戦後外交転換説
(2)勢力圏外交連続説
2 ワシントン体制下の東アジア国際政治
(1)ワシントン体制新秩序説
(2)ワシントン体制旧秩序説
二 対外政策の諸潮流
三 方法としての国際政治史
第一章 「国際変動の第一波」と原外交――原内閣期(一九一八年九月―一九二一年一一月)
一 協調の中の拡張策
1 在華権益拡張策と新四国借款団
(1)南潯鉄道
(2)四F鉄道
2 パリ講和会議と五・四運動
(1)パリ講和会議
山東問題
委任統治問題
パリ講和会議の意義
(2)五・四運動
二 「鮮満防衛」体制の模索――原内閣の対満蒙政策と国際政治
1 「北満シベリア出兵」と東支鉄道
(1)「北満シベリア出兵」再編の論理
(2)東支鉄道南部支線改築策の挫折
2 朝鮮独立運動と日中関係
(1)三・一独立運動と間島問題
(2)琿春事件と間島管理体制の整備
3 「限定的援張」策の形成
(1)張作霖との相互接近
(2)東方会議
三 小括――「単純化された国際環境」と原路線の暫定性
第二章 ワシントン体制の成立と「国際変動の第二波」――高橋、加藤、山本内閣期(一九二一年一一月―一九二四年一月)
一 ワシントン会議と極東問題
1 ワシントン会議への道程
2 ルート四原則と九ヶ国条約
(1)ルート四原則
(2)ヒューズ修正案と九ヶ国条約
3 山東問題と対華二一箇条要求関連条約改廃問題
(1)山東問題とマクマリー・イニシアティブ
(2)対華二一箇条要求関連条約改廃問題
4 シベリア撤兵問題と東支鉄道問題
(1)シベリア撤兵問題
(2)東支鉄道問題
二 不干渉政策の深化と「国際変動の第二波」
1 不干渉政策の深化
(1)第一次奉直戦争
(2)北満シベリア撤兵と朝鮮独立運動の停滞
(3)文化外交の試練
2 「国際変動の第二波」
(1)ソ連の登場
(2)中国国権回収運動
(3)国共合作と中国国民革命
三 小括――「単純化された国際環境」から「三つの脅威」へ
第三章 中ソ新動向と第一次幣原外交――清浦、加藤、若槻内閣期(一九二四年一月―一九二七年四月)
一 日ソ関係と中国修約外交
1 日ソ関係と満蒙問題
「対支政策綱領」と松岡洋右満鉄理事
国交樹立後の日ソ関係
進出の代償
2 ワシントン体制論の分化――中国修約外交と日米英
(1)五・三〇事件から中国修約外交へ
五・三〇事件
不平等条約改正問題
(2)北京関税特別会議
北京関税特別会議
ワシントン体制論の分化
二 中国内争と日本の対応
1 外務省出先の幣原批判
2 陸軍上層部の幣原批判
3 陸軍中堅層の幣原批判
三 小括――対中構想の拡散と政治技術の後退
第四章 国民政府の成立と田中外交――田中内閣期(一九二七年四月―一九二九年六月)
一 田中外交と中英米
1 田中外交の初期方針と中英米
(1)第一次山東出兵と中英米
第一次山東出兵
初期田中外交と中英米
(2)対中構想の諸潮流と東方会議
対中構想の諸潮流
田中路線と東方会議
2 済南事件と「居留民保護」
(1)経緯
(2)原因
(3)影響
3 張作霖爆殺事件と関東軍
(1)張作霖爆殺事件の論点
(2)関東軍上層部と爆殺の意図
4 張学良の登場と国民政府の革命外交
(1)張学良の登場と外交権移管問題
(2)国民政府の革命外交
不平等条約改正策
通商政策
重要産業接収策
強いられた経済外交
二 朝鮮問題と日ソ関係
1 朝鮮問題の再燃
2 田中内閣とソ連
(1)日ソ不可侵条約問題
(2)対日政治宣伝禁止問題
三 小括――田中外交の選択肢
第五章 第二次幣原外交と「国際変動の第三波」――浜口、若槻内閣期(一九二九年七月―一九三一年一二月)
一 東アジア構想の相剋
1 奉ソ戦争と国際政治
(1)中ソ紛争と日米
(2)衝突と妥協
2 経済外交と重光イニシアティブ
(1)日中関税協定の成立
(2)中国外債整理交渉と治外法権撤廃交渉
西原借款否認問題と幣原、重光の初期方針
債権者会議の開催と英米中各国の動向
日中交渉の打開
重光の帰朝と満州事変の勃発
幣原外交の成熟と重光イニシアティブ
二 「国際変動の第三波」としての満州事変――外交による秩序回復の可能性
1 日中直接交渉問題
2 錦州問題
三 小括――軍事力による秩序回復の可能性
結論――国際変動と政策潮流
一 「戦間前期」の国際変動と日本外交
二 対外政策の諸潮流
1 対中政策の諸類型
2 三つの政策潮流
あとがき
主要参考文献
人名索引
事項索引
※本書で頻繁に引用される文献については、各章末の注を簡略化するため、以下のような略称を用いた。
『日外』…外務省編『日本外交文書』(各年版)
『日外主』…外務省編『日本外交年表竝主要文書』(原書房、一九六五年)、上巻、下巻
JANA…Microfilm Reproductions of Selected Archives of the Japanese Army,
Navy, and Other Government Agencies, 1868-1945 (Washington, D.C., 1957-1958)
FRUS…Department of State ed., Papers Relating to the Foreign Relations
of the United States, 1918-1931 (Washington, D.C., 1930-1946)
『革命文献』…中国国民党中央委員会党史史料編纂委員会編『革命文献』(台北:中央文物供応社、一九五七―一九八九年)、全一一七輯
『中日関係史料』…中央研究院近代史研究所編『中日関係史料』(台北:中央研究院近代史研究所、一九八七―一九九六年)、山東問題(全二冊)、東北問題(全四冊)、排日問題、商務交渉、軍事外交交渉
『中外』…国立編訳館主編『中華民国外交史彙編』(台北:渤海堂文化公司、一九九六年)、全一五冊
『民国外交史資料』…程道徳、鄭月明、饒戈平編『中華民国外交史資料選編 一九一九―一九三一』(北京:北京大学出版会、一九八五年)
『秘笈録存』…中国社会科学院近代史研究所近代史資料編輯室主編『秘笈録存』(北京:中国社会科学出版社、一九八四年)
DBFP…E. L. Woodward and Rohan Butler eds., Documents on British Foreign
Policy, 1919-1939, first series, second series (London, 1946-1947)
DVPS…Ministerstvo inostrannykh del SSSR ed., Dokumenty vneshney politiki
SSSR, 1-14 (Moscow, 1959-1968).
※「満州」という表記には本来括弧を付すべきあるが、本書では読者の煩雑さを考慮して括弧を省略した。また、引用文中には、今日の視点からは不適切な呼称も出てくるが、歴史的文書であるため、原文のままにした。
――――【2】あとがきからの抜粋――――
およそ歴史的な事象とは一過性のものであり、厳密な意味において繰り返されることはない。
その反面で、極めて現代的とされる事象の中には、さして遠くない過去との共通性をしばしば見出すことができる。経済大国としての地位を築きながらも、関係各国との軋轢や東アジアにおける秩序形成に苦悩する今日の日本の姿は、同様な課題を背負った一九二〇年代と重ね合わせてみれば、興味深い考察が可能となるのかもしれない。
とはいえ、本書は国際政治史研究そのものを目的とするものであり、性急に歴史の教訓や未来への展望を引き出すことを自制してきた。その一方で、アメリカの大国化、日本におけるデモクラシー状況下での協調外交、中国独自の外交様式、ソ連のイデオロギー外交、および朝鮮内外における独立運動等を分析する過程において、現代国際政治の起点としての一九二〇年代という意識は常にあった。
現代的観点からの史的研究という意味でさらに念頭にあったのは、歴史認識の乖離という問題であった。もっとも、歴史認識に差違のあることが常に問題なのではない。仮に同一の史料を厳密に考証したとしても、解釈は離反し得る。研究者には史料と解釈の両面から新しさが要求されるのであり、結果的に歴史認識に乖離が生じることは必要ですらある。
上記の文脈における歴史認識の乖離を「結果としての歴史認識乖離」とするならば、本書執筆時の胸間にあったのは、これとは異質な「構造としての歴史認識乖離」とも呼ぶべきものである。前者の場合には互いの立場に一応の敬意が払われるのに比して、後者では解釈や史料的根拠を許容し得ないものとして否認し合う。この「構造としての歴史認識乖離」は、時として国家的対立の様相すら呈しかねない。
日本と関係各国の間には、互いの歴史観に対する根強い不信感が存在するのであり、その溝を着実に埋めていくことは研究者に課せられた責務の一つである。だが現実には、その溝はむしろ深まっているかに思えることがあり、研究者の姿勢自体にも一因があると感じざるを得なかった。本書においては、一国の史料にのみ依拠して他国の「暴動」や「掠奪」を史実として記してしまうような安易さを、自らに許さないよう努めた。
この種の問題を克服するためには、関係各国の史料を調査し、丹念に比較検討する以外にない。その意味では、ソ連外交文書を完全には活用できなかったことが、最大の問題点として残されている。他方、こうした手法は身の不才を顧みないものではないのかという疑念を払拭できずにいることもあり、本書完成には一〇年の歳月を費やさねばならなかった。
……(以下略)……
――――【3】書評――――
ここでは御参考までに、拙著『東アジア国際環境の変動と日本外交 1918-1931』(有斐閣、2001年)への書評情報を掲載してあります。書評を執筆して下さった方々には、心より御礼申し上げます。微力ながら、今後の研究に活かしていきたいと考えております。
・加藤聖文先生による書評…『東アジア近代史』(第5号、2002年3月)、111-114頁
・酒井哲哉先生による書評…『外交フォーラム』(第167号、2002年6月)、97頁
・戸部良一先生による書評…『軍事史学』(第38巻第1号、2002年6月)、77-83頁
・後藤春美先生による書評…『史学雑誌』(第111編第9号、2002年9月)、93-99頁
・土田哲夫先生による書評…『中国研究月報』(第57巻第3号、2003年3月)、48-49頁
・小池聖一先生による書評…『国際政治』(第133号、2003年8月)、177-179頁